はじめに

「頑張って運動しているのに、なぜか前ももだけ張ってしまう…」
「脚を細くしたいのに、逆に筋肉がついて太く見える…」
こうした悩みの多くは、筋肉のつきすぎではなく体の使い方のアンバランスによって起こります。
特に前もも(大腿四頭筋)が張るケースでは、股関節や骨盤のポジション、膝の使い方が関係しています。
この記事では、理学療法士視点の解剖学的な解説と、ピラティスでの改善方法を詳しく紹介します。
① 前ももが張る原因と解剖学
前ももは大腿四頭筋(Quadriceps femoris)という4つの筋肉で構成されます。

- 大腿直筋(Rectus femoris):骨盤前面の下前腸骨棘(AIIS)から膝蓋骨を経て脛骨粗面に付着。股関節屈曲+膝関節伸展の作用。
- 外側広筋(Vastus lateralis):大腿骨外側面から脛骨粗面。膝関節伸展。
- 内側広筋(Vastus medialis):大腿骨内側面から脛骨粗面。膝伸展、膝蓋骨の内側安定。
- 中間広筋(Vastus intermedius):大腿骨前面から脛骨粗面。膝伸展。
1. 骨盤の前傾(反り腰タイプ)
骨盤前傾では、大腿直筋が起始(AIIS)から膝まで伸張された状態になり、歩行や立位で常に張力がかかります。
さらに腸腰筋(腸骨筋+大腰筋)が短縮すると股関節屈曲が優位になり、お尻の大臀筋が使われにくくなります。
→ 結果として前ももに過剰な負荷がかかり、張りや硬さが生じます。
2. 骨盤の後傾(猫背タイプ)
座ると骨盤後傾し、股関節が伸展方向でロックされます。
歩行時に脚を前に出す際、腸腰筋の活動が低下していると、代償として大腿直筋が股関節屈曲を担い、前ももに力が入りやすくなります。
3. 股関節の動きの悪さ
股関節の屈曲・伸展・外旋の制限があると、前ももや膝伸展筋群が代償して働きます。
これにより、大腿四頭筋の一部(特に大腿直筋・外側広筋)が慢性的に緊張し、張りとして現れます。

② 前ももが張る人の特徴(動作から見る)
- 歩行時に前ももが疲れやすい
- 椅子に座ると骨盤が後ろに倒れる
- お尻を使おうとしても効いている感じがしない
- 膝が伸びきった立位(ロックニー)
- ヒールなどで膝関節を伸ばして立つと張りやすい
→ この特徴は、筋肉のアンバランス+骨盤・股関節の使い方の癖を示しています。
③ 筋肉の使い方を整えるピラティス的アプローチ
◎使いすぎ筋
- 大腿直筋(前もも、膝伸展+股関節屈曲)
- 外側広筋(膝伸展)
◎使えていない筋
- 大臀筋(股関節伸展+外旋)
- 中臀筋(股関節外転+骨盤安定)
- 腸腰筋(股関節屈曲+体幹安定)
- 内転筋(股関節内転+骨盤安定)
→ ピラティスでは、前ももを“緩めながら”、お尻・腸腰筋・内転筋の再教育を行います。
④ 前ももの張りを整えるエクササイズ(解剖学解説付き)
1. ブリッジ(ヒップリフト)
目的:大臀筋とハムストリングの活性化、膝伸展の代償抑制
- 仰向けで膝を曲げ、足を腰幅
- 息を吐きながら骨盤を持ち上げる(脊柱を一つずつマットから離すイメージ)
- 吸いながら戻す
📝 解剖学ポイント:骨盤の後傾→前傾を調整しながら大臀筋とハムストリングを使うことで、前もも(大腿四頭筋)への過剰張力を抑制。
2. スパインツイスト
目的:胸郭・骨盤の連動、股関節周囲の可動性向上
- 座位で背骨を伸ばし、両腕を肩の高さに
- 息を吸って背骨を長く、吐きながら左右にツイスト
- 骨盤は固定、背骨のみ回旋
📝 解剖学ポイント:胸椎・腰椎の回旋可動性を高めることで、股関節屈曲時の代償を減らし、前ももへの負荷軽減。
3. テーブルトップ
目的:腸腰筋の協調的活動、膝伸展の代償抑制
- 仰向けで両膝を立てる
- 片脚を交互に床にタッチします
- 腰が反らないよう腹部を引き込み、吸いながら戻す
📝 解剖学ポイント:腸腰筋(大腰筋+腸骨筋)を使うことで股関節屈曲を前ももに頼らず行える。骨盤前傾の補正にもつながる。
⑤ 日常生活での意識ポイント
- 座り方:骨盤を立てて座る(後傾防止)、足裏を床に
- 立ち方:膝は軽く曲げる、重心はかかと〜つま先全体に均等
- 歩き方:股関節から脚を後ろに伸ばす意識、太もも前に頼らない
⑥ ピラティスで叶える“解剖学的に正しい美脚ライン”
ピラティスは筋肉を鍛えるのではなく、筋肉の協調・骨盤・股関節・膝の正しい使い方を再教育する方法です。
前ももが張る原因を解剖学的に理解することで、
- 大腿四頭筋の過剰緊張を抑制
- お尻・腸腰筋・内転筋を使える体に
- 日常動作で前ももに頼らない自然な歩行・立位を獲得
これらを組み合わせることで、自然にしなやかな脚ラインが作れます。
まとめ
- 前ももの張りは「使いすぎ」と「使えていない筋肉」のアンバランスが原因
- 骨盤・股関節・膝の使い方を整えることで改善
- ピラティスは、筋肉を“緩めて”“再教育”する理想的なアプローチ
美脚づくりは筋トレではなく、「解剖学的に正しい体の使い方の再教育」から。
Nピラティスでは、理学療法士が解剖学的知識に基づき、個々に最適な体の使い方を指導しています。








