1. はじめに
変形性膝関節症と診断されたとき、リハビリや運動指導の場でよく耳にするのが「大腿四頭筋を鍛えましょう」というアドバイスです。
確かに、大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)は膝関節を安定させる重要な筋肉です。しかし、実際には大腿四頭筋ばかりを鍛えすぎることで、逆に膝の痛みを悪化させてしまうケースも少なくありません。
本記事では、なぜ「大腿四頭筋だけを鍛えると問題が起きるのか」、そして「本当に鍛えるべき筋肉はどこなのか」を、解剖学的な視点も交えて徹底的に解説します。
2. 変形性膝関節症とは?
変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis:KOA)は、膝関節の軟骨がすり減り、関節の変形や炎症が進行する疾患です。
主な症状
- 膝の痛み(特に立ち上がりや階段昇降時)
- 朝のこわばりや動き始めの痛み
- 膝の腫れや熱感
- 膝が曲げにくい、伸ばしにくい
進行すると、膝の変形が強くなり、O脚が顕著になっていきます。
発症の背景
- 加齢や運動不足による筋力低下
- 肥満による膝への過剰な負担
- 股関節や足首など、下肢全体の動きの乱れ
- 姿勢や歩き方のクセ
つまり、膝だけの問題ではなく、下肢全体や体幹との運動連鎖が崩れることで発症・悪化する病気といえます。
3. 大腿四頭筋ばかりを鍛える問題点
3-1. 大腿四頭筋とは?(解剖学の基礎)
大腿四頭筋は、太ももの前面に位置する強力な筋肉群です。
構成する4つの筋肉は以下の通りです:
- 大腿直筋:股関節を曲げ、膝を伸ばす
- 外側広筋:膝を伸ばす、膝蓋骨を外側に引く
- 内側広筋:膝を伸ばす、膝蓋骨を内側に引く
- 中間広筋:膝を伸ばす
主な作用は「膝を伸ばすこと」であり、歩行や立ち上がり、階段の昇降に欠かせない筋肉です。

3-2. 大腿四頭筋を鍛えすぎるとどうなる?
変形性膝関節症のリハビリにおいて、大腿四頭筋強化は有効ですが、過剰に働かせることで次のような問題が起こります。
- 膝蓋骨(お皿)が大腿骨に強く押し付けられる
- 膝関節の摩擦や圧迫が増えて痛みが悪化する
- 太ももの前側ばかりに力が入り、筋肉バランスが崩れる
- ハムストリングスや臀筋が働かなくなり、膝の安定性が低下する
つまり、大腿四頭筋ばかりを鍛えると「膝を守るはずの筋肉」が逆に膝を壊す方向に働いてしまうことがあるのです。

4. 本当に鍛えるべき筋肉とは?
では、変形性膝関節症の改善に向けて「本当に鍛えるべき筋肉」はどこでしょうか?
4-1. ハムストリングス(大腿後面)
大腿骨の後面から膝下に付着する筋肉群で、膝を曲げ、股関節を伸ばす働きを持ちます。
大腿四頭筋と拮抗する関係にあり、膝関節の前後バランスを整える役割を果たします。
弱ると大腿四頭筋優位となり、膝蓋骨への圧迫が増えるため強化が必要です。
4-2. 大臀筋・中臀筋(お尻の筋肉)
股関節を安定させる大臀筋・中臀筋は、膝への負担を軽減する重要な存在です。
特に中臀筋が弱いと骨盤が安定せず、歩行中に膝が内側へ倒れやすくなり、O脚や膝の内側へのストレスが増します。
4-3. 内転筋(内もも)
膝の内側を支える筋肉であり、O脚傾向を抑制する役割を持ちます。
大腿四頭筋だけを鍛えると外側広筋が強くなりすぎてバランスが崩れるため、内転筋を補強して膝のアライメントを整えることが大切です。
4-4. 体幹(コア)
膝の痛み改善に意外と見落とされがちなのが「体幹の安定性」です。
体幹が弱いと骨盤が不安定になり、その影響が膝に及びます。
腹横筋や多裂筋といったインナーマッスルを鍛えることで、下半身全体の動きが安定します。
5. 鍛えるべき筋肉のエクササイズ例
ここでは、自宅でできる簡単なエクササイズをご紹介します。
5-1. ヒップリフト(ハムストリングス・大臀筋強化)
- 仰向けに寝て膝を90度に曲げる
- お尻を持ち上げて一直線にする
- ゆっくり下ろす
→ 10〜15回×2セット
5-2. クラムシェル(中臀筋強化)
- 横向きに寝て膝を曲げる
- 足を揃えたまま、上側の膝を開く
- ゆっくり戻す
→ 10〜15回×2セット
5-3. ボール挟みエクササイズ(内転筋強化)
- 椅子に座り、膝の間にボールやクッションを挟む
- 内ももで軽く押し合う
- 5秒キープして戻す
→ 10〜15回×2セット

5-4. ヒップヒンジ
- 骨盤の前傾を誘導します
- 体を一直線に保つ
- 椅子に座るような感覚で膝の位置を変えないことがポイントです
→ 2〜3セット
これらの運動は負担が少なく、膝関節を守りながら効率的に筋肉を強化できます。
6. まとめ
- 変形性膝関節症では「大腿四頭筋を鍛える」ことがよく推奨されますが、それだけでは不十分です。
- 大腿四頭筋を鍛えすぎると、かえって膝に負担が集中することがあります。
- 本当に鍛えるべきは ハムストリングス・臀筋・内転筋・体幹 であり、全身のバランスを整えることが大切です。
- 適切なエクササイズを取り入れることで、膝の痛み改善だけでなく、再発予防や歩行能力の向上にもつながります。
膝の痛みを感じている方は「太ももの前だけ」ではなく、「全体のバランスを整える筋トレ」を心がけましょう。








